この事例の依頼主

60代 女性

相談前の状況

相談者は、長年、父所有の家屋に父母と三人で暮らしていたところ、父が死亡し相続が開始したが、共同相続人間(相談者の母、弟および妹の間)で遺産分割協議をすることなく、母とともに父所有の家屋に住み続けていました。其の後、母が死亡したので、弟から遺産分割請求がなされました。相談者としては、長年住み続けてきた家屋でこれからも生活していくことを切望しましたが、弟は、当該家屋を売却し、その売得金を分配してほしいと強く主張していました。なお、妹は、ある程度の財産をもらえるのであれば、姉が当該家屋の所有者となることに異論はありませんでした。相談者は、父から当該家屋については、母の面倒を見ることを条件に贈与されたものと理解していたので、長男でありながら父母の面倒を見なかった弟の主張には納得できない状態でした。

解決への流れ

長女が独りで父母の介護や看護をしてきたのですから、遺産分割協議においては、父母の財産形成や維持について貢献したことを主張したり、父の生前、特に弟は一人息子だということで、父から少なからずの援助を受けていた事実を主張し、遺産分割として金員や有価証券類を与えるが、当該家屋については、相談者が単独で相続することを受け容れさせるよう示唆しました(寄与分の主張)。ただ、相談者において、ご自身の貢献の程度や、弟や妹が生前贈与を受けたことを証明する証拠に乏しく、さらに、亡父が当該家屋を相談者に贈与したことを証明できるような書面も存在しないのであれば、過分に課税されることを覚悟したうえで、時効取得を主張するという方法もあることを教示しました。すなわち、相談者は、父の死亡後、当該家屋に20年以上居住し、公租公課はもとより、家屋の改修等の維持管理を相談者が単独で行ってきたのですから、いわば最後の手段として当該家屋の時効取得を主張することも可能であることを教示したのです。結局、当該不動産以外に目ぼしい遺産はなく、また、相続税に比して高額な税金負担することは、相談者の今後の生活にも響いてくることから、当該家屋を売却し、相談者に有利な諸般の事情を主張することで、可能な限り多額な分配金を受け取るという方針で協議に臨みました。実際、家屋を相続しても、維持費にかなりの出費が嵩むことや、ひとり暮らしをするには必要以上に大きな家でしたので、まとまった金員を得て、心機一転、近所の綺麗な新居での再出発をして良かった事案でした。

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長浜 宏治 弁護士からのコメント

親と同居し介護や看護に勤めた子が、親の死亡後、他の共同相続人である兄弟姉妹と遺産分割協議をすることなく、従前どおり、当該家屋で生活を続けるという事案に、時折、出会います。登記も亡き親の名義のままであり、また、親が遺言を残しているわけでもないケースがほとんどですので、争いになると、解決に長い時間と労力を費やすことになってしまいます。同じ親を持つ兄弟姉妹間では、さして争いはなく相続問題が等閑になっていても、次の世代、つまり孫が相続人となる時代が来ると、孫同士には親近感がないため打算的となり、骨肉の争いとなってしまうこともあります。したがって、相続開始後は、できるだけ早く遺産分割協議をして次の世代に禍根を残さないようにしてほしいものです。また、昨今、はやりの「終活」の一環として、遺言を作成しておくことを勧めします。