この事例の依頼主
20代 女性
事務職(正社員)として入社した新人社員であった相談者が,入社以来,社長の妻からパワハラを受けてきました。相談者は,社長に相談をしたところ,社長との話し合いで,社長の妻による接触を避けるため一旦テレワークをすることになりました。すると,突如,テレワーク中の相談者に対して,会社から解雇が言い渡されるとともに,テレワークを止めて出社をし,社長の妻の近くで働くことを命じられました。このことにより,相談者は精神的苦痛を受け適応障害を発病してしまいました。
相談者から依頼を受けた当職から,「当該解雇は明らかに不当解雇であるため,撤回を求める」旨の内容証明郵便を会社に送りました。また,同時にテレワークの継続も求めました。その後,社長との話し合いにより,社長の妻からの接触はしない,という条件で,相談者は,テレワークを中断して,出社することとなりました。しかし,その数日後,会社側にも弁護士がつき,解雇を撤回するとともに,相談者に対して,適応障害を理由とする休職命令を発しました。その後,相談者の症状が回復した旨の医師の診断書を会社に提出しましたが,それでも会社は,休職命令を出したままでした。上記のような対応は,解雇を維持すると後で裁判所に無効と判断されてしまうので,「適応障害」を口実にして休職命令を出しておけば,会社は賃金を支払わずに済み,解雇をしたのと同じ結果を得られるという算段に基づく,不当な対応でした。その後,当職の方で,労働審判を起こしました。相談者が事前に取っていた,社長の妻のパワハラの録音により,会社の対応の不誠実さは,裁判所にもよく伝わりました。その結果として,労働審判2回目の期日において,同日をもって相談者が退職する一方で,会社側は,合計で給与1年分賃金・解決金を支払うという条件で,調停が成立しました。
まず,本件は,パワハラの録音が複数あったという点が非常に大きく,これだけで,会社の不誠実さを大きく裏付けることができました。その上で,以下の3本の法律構成で,休職中の賃金を請求しました。①相談者は前日まで会社に出勤できていたため休職事由はない(よって賃金請求権は失わない)。②仮に会社への出勤が難しくても,テレワークの継続も可能であったため,やはり,休職事由はない(同上)。③仮に休職事由があるとしても,適応障害に至ったのは,社長の妻のパワハラや突然の解雇にあるため,会社の責に期すべき事由がある(同上)。会社の対応の不誠実性は明らかでしたので,慰謝料請求も併せて行いました。解雇事案の労働審判は,勝利見込みがある事案でも,6か月分の賃金相当額の解決金が相場と言われることがあります。本件は,解雇事案とは少し異なりますが,1年分の賃金相当額の解決金を得ることができたのは,大きな成果だったと言えます。「解雇が無理なら休職命令で代用しよう」という会社側の不誠実な対応を,労働審判を利用してきちんと糾すことができたことも,良かったと思っています。