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「仕事ができない」公務員、クビにならないのはなぜ? 分限免職の仕組みと裁判例
2018年04月11日 09時59分

安定職のイメージが強い公務員。よく見かける「親が子どもに就いてほしい職業」などの調査でも、常に上位をキープしているように、その安定感から人気職になっているといえるでしょう。ですが、実際には公務員が免職になる制度は存在します。どのような仕組みになっているのでしょうか。(フリーライター:はるの)

安定職のイメージが強い公務員。よく見かける「親が子どもに就いてほしい職業」などの調査でも、常に上位をキープしているように、その安定感から人気職になっているといえるでしょう。ですが、実際には公務員が免職になる制度は存在します。どのような仕組みになっているのでしょうか。(フリーライター:はるの)

●懲戒免職と分限免職

公務員が自らの意思によらずその職を失うケースは、大きく「分限免職」と「懲戒免職」に分けられます。懲戒免職については、よく聞く言葉ですね。懲戒免職は、懲戒処分の一つで、職務上の違反行為などに対して課されるものです。

例えば、公金を横領したり、盗んだりした場合や、公務外で放火、殺人などの犯罪行為をした場合には、懲戒免職となります(人事院「懲戒処分の指針について」http://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.htmより)。

もう一方の、「分限免職」は、「職務遂行に著しい障害がある」職員などになされる免職処分で、簡単に言うと、「仕事がきちんとできない状況にある」ということです。分限免職の理由の一つに「勤務実績不良」、いわゆる、「仕事ができない」があります。ただ、簡単に免職ができるわけではなく、訴訟に発展するケースもあります。裁判例を見てみましょう。

●勤務実績不良を理由にした分限免職をめぐり、訴訟に

実際に「勤務実績不良」を理由にして免職となり、裁判に発展したケースが、東京都武蔵村山市にあります。当該職員は分限免職を不服として最高裁まで争い、勝訴(東京地裁平成 24 年9月 26 日判決)。復職を果たしました。

裁判にて明らかにされた内容から当該職員は、「自己の業務の失念」、「シュレッダーを使用するが周辺を片付けない」、「注意されている途中で帰宅する」など、職務を十分に遂行出来ていない様子がうかがわれ、再三の注意・指導に対しても改善が見られなかったことが読み取れます。

また、免職になる以前に問題行動を起こし、懲戒処分も受けています。

当該職員が免職になった理由として、武蔵村山市は「適格性欠如」と「勤務実績不良」をあげており、実際に当該職員の勤務実績は、判決の中でも「著しく低調である」と認められています。

なぜ、この処分が覆され、当該職員の復職は認められることになったのでしょうか。判決のポイントを見ていきましょう。

●病気を鑑みない「分限免職」は不当とされた

実際に当該職員の「分限免職」が取り消された理由は「病気」と「手続き上の不備」です。

「当該職員は『統合失調症』を発症しており、『勤務実績不良』は病気によるものである。病気による場合は、地方公務員法28 条1項2号にのっとり、『指定医師の判断』なくしては免職にはできない」というのが、当該裁判の結果です。

公務員を分限免職にする場合は、その職員が、メンタルヘルスにかかわる病気などに罹患しているかが大きなポイントになってきます。実際、病気を理由にすれば、最長3年の休職が可能であり、免職の際も「指定医師の判断」など諸条件が必要となり、より免職のハードルは上がるのが実情です。

当該裁判でも、この点が認められ、当該職員の病気を鑑みない今回の「分限免職」は不当とされ、復職が認められることとなりました。このように、分限免職をめぐっては、様々な要因が複雑に絡み合うことがあり、単に「無能だからクビ」とは言いにくい状況にあります。

●免職が覆されれば、その間の給与は満額支払われる

裁判において免職が覆された場合、その免職処分自体がなかったことになり、その間勤務につけなかったのはその職員の責任ではないということになります。このことにより、免職になった日から、復職の日まで、その職員が勤務していれば支払われたであろう給与が、満額支払われることになります。

単純な数字の計算になりますが、仮に、年収が総支給で500万円の職員が2年間裁判を続け復職した場合、公金から支払われる金額は1000万円です。これらは、1日も勤務実績がないにもかかわらず、満額支給されることになるのです。こういったことからも、自治体側は、安易な分限免職はできず、分限免職に二の足を踏みがちになります。

●免職にするためには最低でも3年以上かかる?

公務員を分限免職にするためには、「適格性欠如」と「勤務実績不良」と評価されるものでなければいけませんが、現実的には簡単なことではないでしょう。免職にしたのちに今回の裁判のように「病気」を理由にして覆ることもあるので、免職にする際にはメンタル系の病気などの症状が出ていないか慎重に確認していく必要があります。

免職も含めて、分限処分の際に具体的にどのようなポイントが重要になるのかは、人事院が留意点を公表しているので、知りたい人はチェックしてみるといいでしょう。(「分限処分に当たっての留意点等について」http://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/11_bungen/1102000_H21jinki536.htm

結局のところ、免職は、長期の療養や休養によっても治癒しがたい心身の故障で、職務の遂行に支障がある場合などにも可能であるため、実際には、多くの場合が「病気」による休職期間3年を経て処分に踏み切ることになるでしょう。

この際も医師の判断など、手続きをきちんと踏む必要があり、「病気」も回復の見込みなどを慎重に判断することになります。これらは、時間がかかるうえに、処分後に裁判を起こされ、覆る可能性もあり、自治体は慎重にならざる得ないのが実情です。

●メンタル系の長期休業者は15年前の3倍に

このように、「仕事ができない」と判断したとしても、免職にすることは簡単なことではありません。このため、仕事をしていない休職状態の職員であっても最長3年までは在籍できることになり、人員の補充を難しくする要因になっています。

たとえ仕事を全くしていなくても、制度上1人としてカウントされてしまうので、こういった職員の存在は小規模な自治体ほど、負担になります。地方公務員健康状況等の現況(平成28年度)の概要によると、病気による長期休業者の総数はこの10年間横ばい傾向にありますが、とくに「精神及び行動の障害」による長期休業者(10万人率)は、15年前の約3倍になっていて、注目すべきポイントになっています。

(弁護士ドットコムニュース)

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