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大阪「表現の不自由展」施設利用拒否めぐり提訴 「差し迫った危険」の有無が焦点に
2021年07月09日 09時49分

「あいちトリエンナーレ2019」で抗議が殺到し、中断された企画展の作品の展覧会「表現の不自由展」。今年、全国各地で開催を予定していたが、抗議やいやがらせが相次ぎ、中止を余儀なくされている。そんな中、「表現の不自由展かんさい」の実行委員会は6月30日、会場側が利用承認を取り消したことに対し、処分の取り消しなどを求めて大阪地裁に提訴した。

この問題について、吉村洋文大阪府知事は6月28日、記者団の取材に対し、「(エル・おおさかは)行政の所有する施設であって管理権がある。安全・円滑に施設を管理する責任もある」としたうえで、利用承認の取り消しについて「僕自身も賛成の立場」と話した。

実行委員会は市民有志で構成されており、展覧会への公金支出もない。民間団体による表現活動であることから、吉村知事も「行政として表現の内容に立ち入ったり評価するつもりはない」としている。

もっとも、施設を使わせないとなれば、結果としてその施設で展覧会を開催できないという制約を課したことになる。今回の利用承認の取り消しは法的にどう評価できるだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。

「あいちトリエンナーレ2019」で抗議が殺到し、中断された企画展の作品の展覧会「表現の不自由展」。今年、全国各地で開催を予定していたが、抗議やいやがらせが相次ぎ、中止を余儀なくされている。そんな中、「表現の不自由展かんさい」の実行委員会は6月30日、会場側が利用承認を取り消したことに対し、処分の取り消しなどを求めて大阪地裁に提訴した。

この問題について、吉村洋文大阪府知事は6月28日、記者団の取材に対し、「(エル・おおさかは)行政の所有する施設であって管理権がある。安全・円滑に施設を管理する責任もある」としたうえで、利用承認の取り消しについて「僕自身も賛成の立場」と話した。

実行委員会は市民有志で構成されており、展覧会への公金支出もない。民間団体による表現活動であることから、吉村知事も「行政として表現の内容に立ち入ったり評価するつもりはない」としている。

もっとも、施設を使わせないとなれば、結果としてその施設で展覧会を開催できないという制約を課したことになる。今回の利用承認の取り消しは法的にどう評価できるだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。

●「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見できたかどうか」

——今回の利用承認の取り消しは、具体的にはどのような点が問題となるのでしょうか。

地方公共団体や指定管理者は、正当な理由のない限り、住民が公の施設を利用するのを拒んではならないとされています(地方自治法244条2項)。

公の施設であるエル・おおさかについての今回の利用承認の取り消しは、この「正当な理由」があるかどうかが問題になります。

——これまでにも似たような事例はあったのでしょうか。

抗議や街宣等を理由に利用承認を取り消した今回の件については、集会の自由(憲法21条1項)が問題となった泉佐野市民会館事件(最高裁平成7年3月7日判決)や上尾市福祉会館事件(最高裁平成8年3月15日判決)が参考になります。

泉佐野市民会館事件で、最高裁は、施設の種類や規模等から利用を不相当とする事由が認められないのに利用を拒否できるのは、利用の希望が競合する場合のほかは、「施設をその集会のために利用させることによって、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合に限られる」と述べています。

そして、他の基本的人権が侵害され、公共の福祉が損なわれる危険がある場合には、「その危険を回避し、防止するために、その施設における集会の開催が必要かつ合理的な範囲で制限を受けることがある」としています。

そのうえで、この制限が「必要かつ合理的なものとして肯認されるかどうかは、基本的には、基本的人権としての集会の自由の重要性と、当該集会が開かれることによって侵害されることのある他の基本的人権の内容や侵害の発生の危険性の程度等を較量して決せられるべき」としています。

この人権侵害の危険性の程度については、「単に危険な事態を生ずる蓋然性があるというだけでは足りず、明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要である」とされています。

また、上尾市福祉会館事件では、最高裁は、「主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条等に反対する者らが、これを実力で阻止し、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは」「警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られる」としています。

これらの判例があるので、実行委員会側は「脅迫などの現実の脅威はない」と主張しているものと考えられます。

●利用承認の取り消し「違法な処分なのではないか」

——今回の利用承認の取り消しは、法的にはどのように評価できますか。

報道を見る限りでは、「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見される」ということもなさそうですし、「警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情」があるのかも疑問です。

これらの事情がないのであれば、利用承認の取り消しは妥当なものではなく、違法な処分であったと考えます。

——実行委員会は、処分の取り消しとともに、従来から予定されている7月16~18日の開催を目指すため、取り消しの効力を一時的に止める「処分の執行停止」も併せて申し立てました。

類似の裁判例として、岡山シンフォニーホールの許可の仮の義務付けが認められた事件があります(岡山地裁平成19年10月15日決定)。

今回の事件でも、この岡山地裁の裁判例のように仮の義務付けが認められ、集会・表現の自由(憲法21条1項)を守る裁判例が増えることを期待します。

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